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グレタ・ガルボの顔:彫刻の顔と観念の顔

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グレタ・ガルボの顔:まえがき

グレタ・ガルボの顔:写真としてグレタ・ガルボを見た時、私は彼女の冷徹な石膏のような顔に背筋がぞっとします。先日、アマゾンのKindleで初めて買物をしましたが、奥付がないし、図書と言えない気もしますが(著作権切れビジネスの一環か)、200枚を超えるブロマイド写真を一気に見て、春が目の前だというのに、やはり背中が凍りつきました。

グレタ・ガルボの視線。

グレタ・ガルボの視線。via Greta Garbo by Edward Steichen


とりあえず、ガルボ、カトリーヌ・ドヌーヴ岩下志麻、野際陽子、林青霞の線が私には1番しっくりきます。同時代のマレーネ・ディートリッヒにも、後代のマリリン・モンローにも、オードリー・ヘップバーンにも目が行きません。「モードとファッション:途上国日本のファッション文化」で述べたように、日本のファッション文化は欧米に対する途上文化として展開してきました。私はガルボの顔を見た時、これが本家なのだと感嘆しました。
グレタ・ガルボの冷徹で石膏のような顔について、称賛に満たされたエッセイをフランスの哲学者ロラン・バルトが論じています。たまに彼は同時代頃の女優やファッション・デザイナー(衣服設計師)を述べることがあり、関心の面白い学者です。「グレタ・ガルボの顔」の原文は邦訳『神話作用』(現代思潮社刊)に収録されていますが、この『神話作用』より転載を許可され、山田宏一責任編集『グレタ・ガルボ、マレーネ・ディートリッヒ―世紀の伝説、きらめく不滅の妖星―』芳賀書店、1973年、95・96頁(to Amazon)で「グレタ・ガルボの顔」が全部掲載されています。山田宏一責任編集の本もかなり古く一般的に入手しにくいため、以下に全文を掲載致します。化粧ではなく、石膏や彫刻の部類に入るグレタ・ガルボの顔をバルトはどのように論じているのでしょうか。最後にヘップバーンとの比較を行なっている点も見逃せません。なお、『神話作用』の当該エッセイを訳したのはクイズ・ダービーで有名だった篠沢秀夫氏です。

ガルボの顔 ロラン・バルト(篠沢秀夫訳)

ガルボは、人間の顔の定着が群衆を最大の混乱の中へ投げこみ、人々が媚薬におけるように人間のイメージの中に文字通り身を滅ぼし、顔が到達することも捨て去ることもできない肉体の絶体状態の一種を成していた映画のあの時代にまだ属している。何年か前、ヴァレンチノは自殺をひきおこしていた。ガルボはまだ、同じ優雅な恋の君臨に参与し、そこでは肉体は地獄落ちの神秘的な感情を展開するのだ。

グレタ・ガルボの顔

グレタ・ガルボの顔:“Greta Garbo Photo Book グレタ・ガルボ”, City Lights Publishing, p.32


これはたしかに嘆賞すべき、オブジェとしての顔である。パリで近年再公開された映画「クリスチナ女王」では、化粧は仮面の雪のような厚みを持っている。それは描かれた顔ではなく、石膏の顔であり、その輪郭によってではなく、顔料の表面によって守られている。もろいと同時に緻密なこの雪のすべてにおいて、奇妙な果肉のように黒い、しかし全く表情のない目だけが、やや震えのある疵である。だが極度の美においてさえ、書かれたのではなくむしろ滑らかさと砕け易さの中に彫刻された、すなわち、完全であると同時にうつろい易いこの顔は、チャップリンの粉を塗ったような顔つき、暗い植物のような町、トーテムのような顔に再び合流する。
ところで、全面的仮面(例えば古代のマスク)の誘感は多分、秘密という主題(イタリヤの半マスクはそのケースだ)よりも人間の顔の原型の主題を含んでいる。ガルボは被造物のプラトン的観念の一種を見させていたのだ。そしてそれが、彼女の顔がほとんど無性別化され、それだからといって疑わしくはないことを説明する。この映画(クリスチナ女王は女性でありまた若い男性の騎手となる)はこの不可分性に向いている。だがガルボはそこで仮装の演技を全然行なわない。彼女は常に彼女自身であり、雪と孤独の同じ顔を彼女の王冠や大きなフェルト帽の下で偽りなしに保つ。彼女の女神という二ックネームは多分、美の最高の状態をいうためよりも、物事が最大の明快さの中に形成され完結している天から降りて来た、その生身の体の本質を示すことを目指していたのだ。彼女自身それを知っていた。いかに多くの女優が、彼女等の美の不安にさせる成熟を大衆に示すことに同意したことか。彼女は違う。本質は堕落してはいけなかったのだ。彼女の顔は可塑的であるよりも、知的完成以外の現実では決してないということが必要だったのだ。本質は徐々に曇り、だんだんと眼鏡、頭巾、追放によってヴェールをかけられた。だがそれは決して変質することがなかった。
ジョージ・フィッツモーリス監督「マタ・ハリ」用にギルバート・エイドリアンはグレタ・ガルボに衣装をデザインした。

ジョージ・フィッツモーリス監督「マタ・ハリ」用にギルバート・エイドリアンはグレタ・ガルボに衣装をデザインした。”Gilbert Adrian costume for Greta Garbo in Mata Hari directed by George Fitzmaurice 1931. Photo by Clarence Sinclair Bull” via Gilbert Adrian:Fashion, History | The Red List


しかしながら、この神格化された顔の中で、マスクよりも鋭い何物かが看取される。すなわち鼻孔の曲線と眉のアーケードとの間の意志的な、従って人間的な連関の一種、外観の二つの地帯の間の個性的な、まれな機能である。仮面は線の総計であり、一方、顔は何よりも線と線との主題的想起である。ガルボの顔は、映画が本質的な美から実在的な美を抽出しようとし、原型が滅びるべき姿の魅惑へ向って撓められ出し、肉体の本質の輝きが女の抒情性に席を譲ろうとする、あのあぶなげな瞬間を表現している。
移行の契機として、ガルボの顔は肖像の二つの時代を融合させ、恐怖から魅力への移り変りを確保する。今日われわれがこの発展のもう一方の極点心いることは明らかだ。例えば、オードリー・へップバーンの顔は、その特殊的な主題(子供のような女、猫的な女)によってだけでなく、その人物によって、もはや本質的なものを何も持たずに形態的諸機能の無限の複雑性によって構成された大体ユニークといえる顔の特殊化によっても、個別化されている。言語のように、ガルボの特異性は概念的種類のものであり、オードリー・ヘップバーンのそれは実在的種類のものである。ガルボの顔は観念であり、ヘップバーンの顔は事件である。

English Summery

The face of Greta Garbo : Roland Barthes’ essay “Face of Garbo” (translated by Shinozawa Hideo) is reprinted. French philosopher Roland Barthes discusses a praise-filled essay on the cold-hearted and plaster-like face of Greta Garbo. Sometimes he is an wonderful scholar interested by mentioning actress and fashion designer (garment designer) around the same age (for example, Chanel and Courreges).
山田宏一責任編集『グレタ・ガルボ、マレーネ・ディートリッヒ―世紀の伝説、きらめく不滅の妖星―』芳賀書店、1973年
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いろんなファッション歴史の本を読んで何も学べなかった残念なファッション歴史家。パンチのあるファッションの世界史をまとめようと思いながら早20年。2018年問題で仕事が激減したいま、どなたでもモチベーションや頑張るきっかけをください。

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