20世紀モード史

20世紀モード史 は、20世紀民衆衣装の変遷を網羅的に辿った図書。20世紀初頭から1970年代までを扱い、広範囲の地域を取り上げて近代化において洋服が普及していった経緯を述べています。

ブリュノ・デュ・ロゼル『20世紀モード史』西村愛子訳、平凡社、1995年

普通、モード史やファッション史では、19世紀までは資料が残りやすい有閑階級(貴族階級その他)の衣装変遷をヨーロッパの流行として叙述され、20世紀になって突如として一般民衆の衣装が注目されます。そのため《取って付けた衣服史》に陥りがちでした。しかし、本書は最初から民俗衣装と既製服に注意し、一般民衆の衣装に多くのページを割いている点が特徴です。本書の焦点は20世紀モードですが、19世紀までの概略についても一般民衆が取り上げられるため、読みやすい安定した叙述がなされています。

既製服をモードや芸術の一環として捉える本書の視点には著者の経歴が強く反映されています。ブリュノ・デュ・ロゼルは30代後半の1960年にla fédération du prêt-àporter féminin(婦人プレタ・ポルテ連盟)に入会し、63年から75年まで同連盟の総代表を務め、既製服産業の振興に尽力しました。76年にはL’Union française des arts du costume(フランス服飾芸術連合)の名誉会長に就任しました。

http://www.pretaporter.com/accueil.aspx
婦人プレタ・ポルテ連盟=la fédération du prêt-àporter féminin

また、類書の中で本書は地理的感覚が濃厚に出ていますから、世界各地の民衆のモードにも注目し、他方で地域内の主要都市がモードの対抗軸として描かれる場合もあります。たとえばロンドンとパリの対立です。20世紀初頭からヨーロッパの仕立店はベルリン、パリ、ロンドン、ウィーンに開店する傾向があり、中でもロンドンとパリは1898年のファショダ事件、翌99~1902年のボーア戦争等、イギリスとフランスとの確執はモード史にも強い影響を与えました。ポール・ポワレがイギリス首相アスキスの婦人に自宅へ招かれた時、イギリスのマスコミは外国人のイギリス内商売を奨励するとは何事だと否定的だったと述べられています(93頁)。細かく言えば該当箇所の対立はロンドンとパリよりもイギリスとフランスと名付けるべきでしょうが。

もう一つの地理的対抗軸の事例は北京と上海です。1911~12年の辛亥革命を起点に中国では清朝期旗袍が衰退し、女性の服装は変化しました。近代化(工業化)の勢いが大きい広東や上海等の中南部地域が北京や天津などの北部よりも衣装の西洋化を強めました。ちなみに、その転換を支えた一集団が諸外国の使節団の設置したミッション・スクールです。

では中国の旗袍はどのように描かれているでしょうか、第3章「革命の時代―1910~1919年」の「孫文の革命と中国人の服装の変化」の中国女性の服装を見ます。中国人女性の間では、清朝期のそれと異なり、まず踝まで絞ったズボンに短めのチュニック(本書は旗袍をこう呼んでいます)を組み合わせた服装が出現しました。次いでズボンが真っ直ぐになりました。その後、チュニックは長くなり、身体にフィットしたものになりました。

the ladies journal 12-1-p15-1
『婦女雑誌』第12巻1号、婦女雑誌社、1926年1月、15頁の1頁前広告
妇女旗袍款式 | 上海图书馆历史图片搜集与整理系统:
「长袍之美」(叶浅予作) via 妇女旗袍款式 | 上海图书馆历史图片搜集与整理系统

なお、「チュニックの片脇にスリットを入れるようになった」(216頁)とありますが、普通、旗袍のスリットは両脇に入れます。上の2枚の絵はツー・ピースの上衣になっている旗袍を描いた雑誌広告と、ワン・ピースとして着用されてからの旗袍の絵「長袍之美」(叶浅予作)です。ロゼルの述べるように、かなりスリムになった旗袍を想像できます。稀ですが、「長袍之美」が示すように旗袍は長袍と呼ばれる場合もありました。

ロゼルの本に戻りますと、1920年代からはズボンを穿く習慣が減り、チュニックはさらに長くなると同時にワン・ピースとなりました。旗袍の劇的な変化の一つは従来のツー・ピースからワン・ピースへの転換ですが、それを本書ははっきりと指摘しています。民俗衣装は組み合わせが変わる転換を採りませんが、旗袍は果敢に変容を遂げていきました。

本書は既製服や一般民衆に注目する視点をもつため、19世紀までの貴族モードと20世紀の民衆モードとを明確に分けて捉えています(プロローグ「モードの誕生」)。そのため焦点がはっきりしていることは既に述べました。民衆モード(または既製服モード)の拡大史の中で最も破壊的な衣装開発は何だったのか、本書は次のように述べています。「(19)60年代が開幕したとき、この時代が服飾史上、おそらく例をみない大変革期になることを予想させるものは何もなかった」(379頁)、また「1965年を境に、その(オートクチュールの)システムが社会の現実との明らかなずれの兆候を露呈しはじめた」(16頁)。そのため、第6章「大変革期から世界危機まで―1961~1979年―」は最も詳細に述べられています。そして、1960年代、特に65年の大変革とはアンドレ・クレージュ(André Courrèges / Andre Courreges)のミニ・スカートです。著者は述べます、「クレージュはポール・ポワレとともに、20世紀モード史の双璧をなす真の創造者である」(398頁)。ミニ・スカートは工業国の全女性に影響を与えました。

アンドレ・クレージュのミニ・スカート
Photo by Willy Rizzo, 1966. via André Courrèges Master of Mod | Colette Blog

最後に、本書は旗袍やミニ・スカート等も大きく取り上げ、目的通り民衆モード史として詳しく、また分かりやすく述べられています。その点が単なる書評ではなく、推薦図書に分類したい所以です。

原著はLa Mode (1980)。

ブリュノ・デュ・ロゼル『20世紀モード史』西村愛子訳、平凡社、1995年


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[投稿日]2017/01/13
[更新日]2017/05/29