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東アジア民族衣装の展開:袖と衣裳からみた古代中華圏の影響

図 3 実験衣1(民国期型旗袍) 図 4 実験衣2(現代旗袍) いずれも蔡蕾作成。 民族衣装の西洋化
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中国のモードと西洋のモードが20世紀東アジアの民族衣装に大きな影響を与えた点を袖のあり方やアンサンブルのあり方から説明しています。

具体的には、古代中国における袖付と上下の組み合わせ(衣と裳、つまり衣裳)から、東アジア民族衣装の展開をたどります。

また、古代中国の服装体系をもとに、最後の補説では西洋の黄金比も交えた近現代の民俗衣装(民族衣装)への影響を簡単にまとめています。

中華圏の旗袍の場合、「旗袍の変容 : 諸説とその限界」に記したように民国期旗袍の変化を取り上げた諸研究は中華圏でも日本でも有象無象の状況に有ります。当サイトは旗袍の歴史について「旗袍(チーパオ):世界で最も有名な民族衣装の意味や歴史」に記した理解を強く勧めています。

中国系の袖と西洋系の袖の違い

まず、袖の在り方が西洋と中国でどう違っていたのかを確認しましょう。

次の写真は中華民国期の旗袍を再現させたものです。肩と身頃(胴体)の区別がありません。一枚の布をそのまま身体全体に使っています。このような袖は身頃と連なっていることから連袖と呼びます。

袖 : 図 3は身頃と袖が分離されていない。これを連袖といいます。図 4は身頃と袖が裁断された後に縫合されています。これを接袖といいます。これを接袖といいます。

袖 : 図 3は身頃と袖が分離されていない。これを連袖といいます。図 4は身頃と袖が裁断された後に縫合されています。これを接袖といいます。これを接袖といいます。いずれも蔡蕾(atelier leilei)作成。

これに対して、西洋ルーツの袖の内、現在、世界中で最も多く使われているのが接袖と呼ばれる袖です。接袖は身頃が肩と切れています。

袖付と呼ばれる洋裁技術が採られており、一旦、同じ1枚の布を部分単位に裁断し、その後にくっつける(接続する)方法なので、これを中国語で接袖と呼びます。日本語では普通袖セットイン・スリーブと呼びますが、文字だけでは意味が分かりません。

東アジア民族衣装の影響類型

中国、朝鮮、日本、ベトナムをまとめて東アジアと呼びますが、当該地域の民族衣装は20世紀前半に大きな変容を遂げ、程度の差こそあれ、いずれもが西洋服へ接近しました

東アジアの服装が中国から強く影響を受けてきたことは広く指摘されてきました。現在でも朝鮮の韓服・チョゴリ(저고리)と日本の着物は中国の古代漢服(唐服)の影響下にあり、中国の旗袍とベトナムのアオザイ(Áo dài)は清朝期旗袍の影響下にあります。

これらの各衣装は中国からの影響のもと、西洋裁縫技術を導入しながらスリム化とボディ・コンシャス化の方向へ共時的に進みました。

この点は、高橋晴子『近代日本の身装文化』(三元社,2005年,246頁)や、岩本真一『ミシンと衣服の経済史』(思文閣出版,2014年,第4章3節「二重の洋服化―洋服の普及と伝統服の改良―」)等をご参照ください。

中国服飾史にみる上衣下裳と上下連属

古代中国では天地を象徴させた上衣下裳(Two Pieces)の形式が長期間にわたり整備され、主に礼服として活用されてきました。

同時に、上下連属(One Piece)の長衣も利用され、深衣、長衫、旗袍などがこれに属します(以上、華梅『中国服飾』五洲伝播出版社、2004年、9頁)

これまでみてきた古代中国では、上衣下裳(Two Pieces)と上下連属(One Piece)が区別されていました。近現代の民俗衣装から民俗衣装への変容において、袖の形態からみた場合、次のような衣服史・服装史の展開パターンを描くことができます。

袖の発生と上下の組み合わせからみた東アジア民族衣装 : 変貌の方向

袖の発生と上下の組み合わせからみた東アジア民族衣装変貌の方向。注 : 連袖は該当英語無し(Plain Sleeveか)、連肩袖は「Raglan Sleeve」、接袖は「Set-in Sleeve」。 注2 : 「上下連属」はOne Piece、「上衣下裳」はTwo Piecesで、上衣=Jacket、下裳=Skirt or Trousers。

袖の発生と上下の組み合わせからみた東アジア民族衣装変貌の方向。注 : 連袖は該当英語無し(Plain Sleeveか)、連肩袖は「Raglan Sleeve」、接袖は「Set-in Sleeve」。 注2 : 「上下連属」はOne Piece、「上衣下裳」はTwo Piecesで、上衣=Jacket、下裳=Skirt or Trousers。(c) 岩本真一(モードの世紀)

図を見ますと、チョゴリと着物が変化の少ない衣服で、アオザイと旗袍は変化が大きかったことが分かります。

アオザイは上下の組み合わせを変えず、袖付を変えました。

旗袍は袖付を変え、連袖から接袖へ転換しました。さらに上下の組み合わせを放棄して、上下連属(One Piece)に転じました。世界中の民俗衣装が民俗衣装となった変化のなかで、最も変化した衣服が旗袍だといわれる所以です。

旗袍が20世紀を通じて大きく転換した内容と意義は「旗袍」「近現代旗袍の変貌」に述べたので、そちらをご参照下さい。

東アジア民族衣装への黄金比のシンクロ的影響

袴のトップが高い位置に昇った事情はよくわからないが,一般のきものにおいて,帯をしめる位置の上昇したことと,関係しあっていることは,たしかである。袴のみについていえば,中国の裙や,朝鮮のチマ(裳)のトップは,乳房のあたりまでくるのであるから,その影響ではないにしても,共通の理由がかくれているかもしれない。女性の帯の位置が高くなりだしたのも,およそ同時期―今世紀に入ってからのことである。(大丸弘「現代和服の変貌Ⅱ―着装理念の構造と変容―」『国立民族学博物館研究報告』千里文化財団、第10巻1号、1985年7月、199頁)

中国の裙(skirt)、朝鮮のチマ(裳)、日本の着物帯のトップが乳房近くまで上昇する点に東アジアの共時性が示されています。

下半身を上昇しているように見せる錯覚効果には、西洋の黄金比が応用されています。詳しくは「黄金比 : 東アジア民族衣装への応用」をご参照ください。

民族衣装を説明する難しさ

このように見てきますと、民族衣装というのは論じることの難しいものだということが分かります。

中華文化の周辺地域への定着という観点はよく見落とされます。

そして、今となってはイベント時に着用されるに縮小した観点からだけ論じられる傾向が強まっています。

丹野郁監修『世界の民族衣装の事典』(東京堂出版、2006年)は詳細に民族衣装をまとめたものですが、この精力的な本でさえ根本的な間違いをしています。

中華圏は次の担当です。丹野郁「総説」、奥村萬亀子「日本」(福山和子「アイヌ」、植木ちか子「沖縄」)、上田一恵「韓国」、相川佳予子「中国」(江川静英「中国少数民族」)、台湾(住田イサミ)、伊豆原月絵「ベトナム」。

このうち、「ロシア」と「中央アジア」は全て加藤定子が書いているのに比べ、東アジアは各執筆者の専門分野のばらつきが目立ちます。本書全体は、催事用正装(イベント用衣装)が取り上げられる地域と、普段着が取り上げられる地域に分かれていて読みにくいです。

確かに民族衣装の文献に多いのが催事用正装ですが、逆にいえば日常生活とは切り離された衣服を民族衣装と捉える傾向があります。これには日常着の全面的な洋服化という地球規模の問題が背景にありますが、それを述べても民族衣装研究の根本的な解決にはなりません。

博覧会仮装行列用の民族服というものは、文化の理解という目的からいえば、有害無益なこともありうる(大丸弘「総論 生活観を反映する民族服」≪梅棹忠夫監修・大丸弘責任編集『着る・飾る―民族衣装と装身具のすべて―』日本交通公社出版事業局、1982年、16頁≫)。

『世界の民族衣装の事典』に見られる叙述角度のズレを確認しましょう。

中国

古代漢服から19世紀・20世紀旗袍にかけて叙述あり。普段着としても正装としても着用された民国期旗袍も取り上げられています(ただし掲載写真は正装のみ)。

日本

着物(kimono)はアウターウェアになった江戸時代の小袖が源流。広くいわれるように中世までの小袖は下着でした。

2019年6月に米国人セレブが自社の下着ブランドに「kimono」と商標登録しました。これに対して着物も小袖も知らない無知な日本人が「着物を下着に商標登録とは無礼だ!」といっているのは、なかなか笑えます。着物は半襟という下着を見せるのが通例だったり、昔は小袖といって下着だったりと、服の多様な姿が楽しいのに、そういう人たちは、いったい何を守ったふりを自己満足しているのでしょうか…?(笑)

民族衣装として着物は明治和服を無視して20世紀和服をさします。明治和服は前近代までの小袖などと同じくゆとりをもっていたので、ルーズなものを無視するという思想で、19世紀の着物はファッション史で取りあげられることは少ないです。ルーズの排除についてはこちらをご覧ください。

普段着の着物を取り上げず、紹介された絵図資料は全て正装および記念撮影によるものですので、伝統的でも日常的でもない着物を日本人も外国人も着物だと理解してきました。

  • 仕事着は「民俗衣装」として無視(10頁)していますが、仕事着の一つである農家服を着た「農家の女性」の写真は掲載(15頁)。
  • アイヌの服に小袖と酷似とありますが(17頁、福山和子)、小袖の漢服との類似性は無視(奥村)。
  • 沖縄の項目には平民男女の服装や子守姿の女性の絵図が紹介されています(21頁、植木)。これは奥村のいう民俗衣装となりましょう。

このように日本の衣装ですら叙述角度が崩れています。民族衣装に限らずモード史や服飾史を論じる場合、中華圏と西洋圏の共通性と差異性を常に意識する必要があります。

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