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性とスーツ:現代衣服が形づくられるまで

3.0
ブックレビュー
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本書はモダンな男性のテイラード・スーツをとりあげ、スーツを帰結とする近現代の男性衣装の展開を概観しています。

また、それに呼応した女性衣装も20世紀を中心に述べています。

男性服の歴史を見ると女性服の歴史が意外に分かりやすいと知りました。

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性とスーツ:現代衣服が形づくられるまで

著者が男性服に注目する理由

著者が男性服に固執するのは次のような衣服史上の事実があるからです。

中世から男性服は女性服よりも革新的で、女性服はいつも保守的でした。

つまり、男性服は常に女性服を牽引してきました。男性服がファッションの方向を導き、規範を決め、美的提案をし、女性服がそれに応えてきました。

もちろん、男性服ばかりに注目する訳ではありません。

服飾史を正確に語ろうとすれば、男性服・女性服双方をともにあわせ考えなければならない」(12頁)

として、第3章「スーツの誕生」に男性服を、第4章「モダニティ」に女性服を述べます。

男性服が女性服を牽引したという本書の立場からは、「ヴォーグ」誌に載ったこのアリックス・グレのドレスの写真をモダンな女性衣装における一つの頂点とみなします。そのうえで、男性のテイラード・スーツのシンプルさの言語が触覚的な女性服の言語にそのまま翻案されたものだと著者は解釈します(222頁)。

男性服が女性服に与えた影響

そこで一つ、男性服が女性服に影響を与えた点について、ヴァルター・ベンヤミンのモード論を後押しに挿入しておきます。

彼は『パサージュ論』の中で次のように述べました。

現在のモードとその意味。1935年の春頃、ご婦人のモードに、中位の大きさの当世風の金属製バッジに自分の名前の頭文字を刻んでジャンパーやコートに付けるのが流行した。男性たちのクラブでは前々から流行していたバッジが、こうしてモードとして女性にまで流行することになったのである(ヴァルター・ベンヤミン『パサージュ論I パリの原風景』岩波書店、1993年、137頁)

19世紀に何が起こったか

著者が服飾史の転換点と考えるのは1800年頃です。

この頃から女性服は徐々に近代化(modernization)をスタート。男性服のモチーフをあれこれ利用することで男性服の理想に近づこうとしました。

スーツを真似る難しさ

男性服の理想とは布地のパーツ(別個に独立し布切れ)を縫い合わすことによって「身体を一つの統一感で包み込んでしまう構造」(14頁)のこと。この理想のスーツは身体密着性をもたず、フォーマルにもインフォーマルにも着られました。

これに対し、女性服は19世紀になっても実際は男性服の理想に近づけず、満艦装飾であり、身体の変形・損傷を顧みない無駄に華美なものだったと筆者は指摘します。

1820年頃にインチ基準の巻尺(measure)が開発された

男性服を中心としたファッション史から見える事として、本書では1820年頃に開発されたインチ基準の巻尺(measure)が事例に挙げられています(第3章「スーツの誕生」)。

これによって、多くの未採寸男性の身体に合うスーツを着用する事が可能になりました。巻尺に付随して、型紙も考案されました(146~149頁)。こうして、既製スーツは特にUSAでヒットしたという服飾史の通説に繋がっていきます。

本書が既製服を重視するのは既製服の美的ステイタスが上昇することで「ファッションが本格的な近代化を成し遂げることができた」からです(199頁)。

19世紀中期の男性スーツからみる着装の男性間個人差

男性スーツに関する鋭い指摘を紹介しましょう。

第4章「モダニティ」の「ワースとその影響」で、著者はマクラナン少将、アラン・ピンカートンと一緒にアンティータム戦場付近に立つリンカーンの写真と、土木技師が着用するスーツに皺が無数に存在する写真を併置し、スーツの安定性と柔軟性を示す二つの対極的な方向として,皺の無さと「しわのネットワーク」を指摘しています(177頁)。

スーツに皺が無い方が良いという話ではなく、スーツを着る人の職業に相応しい皺のあり方が無数からゼロまであったのだと著者は言っているのです。

女性側の変化

女性側の変化はどのように述べられているでしょうか。

西洋の女性服は、18世紀から男性服より多くの空間を占領していました。

西洋においてスリム化、ボディ・コンシャス化は遅くとも19世紀末に確認できます。

たとえば、1891年頃のアメリカでbody suitsまたはthree in oneのコルセットが確認されます。これは胸部と肋骨に圧迫を与えない改良コルセットです(179頁)。

1900年から1912年にかけて女性服はボリュームを減らし、着衣姿の女性と男性が空間に占有する大きさはほぼ等しくなりました(同頁)

その後、欧州では第1次大戦後の1910年代末から20年代にかけて「flat-boylike」(男性風平坦)が女性ファッションの流行となります(Jill Fields, An intimate affair; women, lingerie, and sexuality, university of California press, 2007, pp. 87-90.)。

その頃、女性は他者の視線に向けて身体を見せていくようになったと本書では指摘されています(186頁)。

このような女性美基準の変化はこちらの記事とも突き合わせてご参照ください。

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アン・ホランダー『性とスーツ―現代衣服が形づくられるまで』中野香織訳、白水社、1997年

本書は古い服飾文化史で置き去りにされてきた男性スーツを再評価したファッション学。

ファッション史上でスーツが定着していく前後の歴史や女性ファッションへの男性ファッションの影響を知ることができます。

2回目の書評

現代スーツの原型は1850年頃に固まり、男性の仕事着として世界標準となっていきました。そのためファッション史からは取り上げられなくなっていきます。

といってもカジュアル・ウェアが中心の現代でもスーツは200年近く生き延びてきた事実があり、本書はその事実の謎解きに迫った本です。

本書の特徴

著者の3つの観点

これまで見過ごされがちだったスーツをもともに、

  • スーツがセクシーな衣服であること(スーツはドブネズミではなく≪モダンな裸体の抽象形≫を示す)
  • 西洋ファッションをリードしてきたのは男性服であること(女性服は男性服のアレンジとしてファッション史を展開した)
  • コルセットは快感であったこと(中華圏の纏足や女子高生のミニスカートなど同様に地位や立場を保証した)

の3点を引き出しています。

そして男女のファッション史に男性服中心説を位置付けました。これは本書の斬新な観点です。

普通、スーツは定型的で地味なものとして捉えられてきました。それを本書は覆して裸体との類似点から上記のような結論を得ます。

またファッションは女性のものという先入観を覆して男性服を目標として女性服が作られてきたことを指摘しています。

20世紀だけ見ているとついファッションとは女性だけのものと思ってしまいがちですが、その点視野が広いと思いました。

前近代への視線

このように著者は従来のファッション史の固定観念をいくつか崩します。

その鋭さは近代や現代を超えた視点、つまり前近代を参照しているからです。

ファッションが女性だけのものではないにしても、18世紀頃のヨーロッパに見られた男性キュロットを服飾の原点にしても説得力は有りません。

本書は中世を視点に次のようにヨーロッパの服装を捉えています。

近代ファッションの時代に突入するまでは、ヨーロッパでは男性も女性も似たような袋状の衣服を身にまとっていた。これには、袖ぐりや身体の線に合わせるための曲線の縫い目などなかった。衣服は立体的に作られていなかったのだが、布が着る人の身体の回りに垂れ下がり、あるいは身体を包み込んでベルトなどで留めることによって、立体的になった。アン・ホランダー 性とスーツ「現代衣服が形づくられるまで」中野香織訳、白水社、1997年、61頁・62頁

よくあるファッション史の本ではヨーロッパの衣服を立体的、アジアの衣服を平面的と捉える悪癖があります。

しかし、ヨーロッパの布もアジアの布も当然、平面です。

その平面の布を袋状にまとう、特に被るという形で衣服は着られていました。つまり貫頭衣は東アジアにだけ見られたものではなく、広くヨーロッパその他の地域でもみられていたことを著者は知っています。

ヨーロッパが貫頭衣から脱却し始めるのは早く見積もっても14世紀末のことです。この点については貫頭衣からテーラリングへの移行に関するこちらの記事をご参照ください。

視野の広さ

このようにスーツを掘り起こした以上に、時代や地域を横断できる広くて柔軟な視野が著者の本領です。

その上で訳者は著者の≪ファッション上の変化が社会変化に先行する≫という持論を引いて著者に屈服するしかないというくらい本書の鋭さを称賛しています。

経済史畑の私から補足させてもらえば、素材が変わった時、既にファッションと社会は変化を待っているというところでしょうか。

でも素材の変化は20世紀を待たねばならないので、やはり本書の視野の広さと深さに脱帽するしかありません。

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いろんなファッション歴史の本を読んで何も学べなかった残念なファッション歴史家。パンチのあるファッションの世界史をまとめようと思いながら早20年。2018年問題で仕事が激減したいま、どなたでもモチベーションや頑張るきっかけをください。

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