ラグラン・スリーブ

ラグラン・スリーブ(raglan sleeve)とは、襟ぐりから脇下に切替線を設けて袖布を縫いつける方法。または、それによって付けられた袖のことをさします。スリーブの中で有名なひとつです。

下のイラストはラグラン・スリーブの簡易な型紙です。袖(スリーブ)部分と身頃(胴体部分)を分ける線が、首元から脇下にかけて引かれています。

ラグラン・スリーブ(raglan sleeve) (c) 512 The Raglan Sleeve Knit – Easy Fit

コート、ジャンパー、ワン・ピース、ジャージー(スポーツ・ウェア上衣)などに広く用いられ、袖と身頃(胴体)が色違いのTシャツやスウェット上衣を見ると、ラグラン・スリーブというものが一目でわかります。

呼称の由来は、ナポレオン戦争の一つ、半島戦争(Peninsular War;1808-1814)で右腕を失った英軍のロード・ラグラン(Lord Raglan)将軍が考案したスリーブから。クリミア戦争(1853-1856)時に負傷者を楽にさせる目的で導入されました。

ラグラン・スリーブの利点には、袖ぐりに余裕ができて着脱が楽になること、肩の部分に縫い目がないため雨がしみ込みにくいことなどがあります。また、肩の運動量が確保されるため射撃などの戦時行動に有益でした。なお、かつてラグランと略称でいわれた衣料は、ラグラン・スリーブのオーバー・コートのことです。

ラグラン・スリーブのヴァリエーションには、セミ・ラグラン・スリーブ(semi R.S.)、サドル・ラグラン・スリーブ(sadle R.S.)、スプリット・ラグラン・スリーブ(split R.S.)などがあります。

色々なラグラン・スリーブ(many kinds of raglan sleeve) (c) kinds of raglan sleeve

セミ・ラグラン・スリーブは、セット・イン・スリーブとラグラン・スリーブの中間にあたり、首と腕の付け根の間、つまり肩の途中から脇へ切り込みの入った袖のことをさします。サドル・ラグラン・スリーブとはラグラン・スリーブの肩部分に切り込み線が入り、肩に平行した形になります。鞍(サドル)に似ていることからついた呼称です。スプリット・ラグラン・スリーブは、前からみるとセット・イン・スリーブ、後身からみるとラグラン・スリーブになったもの。男性向けのスプリング・コートなどに使われます。スプリット(分割)の意味から来ており、単にスプリット・スリーブともいいます。

さて、著名なベトナムの民族衣装アオザイは、その多くがラグラン・スリーブを採用しています。

アオザイは、グエン王朝期に清朝官人の朝服(旗袍、チーパオ)を簡略化したのが始まりましたが、ラグラン・スリーブが採り入れられたのは、布地のパターン制作と裁断方法が西洋風になったフランス植民地時代(1887~1954年)からのことです。原型の似ている旗袍(チーパオ)とアオザイを比べると、袖部分は、旗袍がセット・イン・スリーブ、アオザイがラグラン・スリーブ。

色々なアオザイ。ズボンとの組み合わせも楽しいです。袖と身頃が同色なのでラグラン・スリーブが分かりにくいですが、左から三人目の女性のアオザイはピンクの濃淡が効いているので見えます。Aodai, Raglan Sleeve (c) ao dai vietnam – Vietnamese culture

一見保守的に見えるものの、とてもセクシーな感じがするのはラグラン・スリーブの影響が大きいですね。袖は袖無から長袖まで応用が効きます。現代旗袍に比べてズボンで露出度が小さく、長袖にした場合でもラグラン・スリーブの角度は袖無を想像させるため、セクシーさが維持されます。

旗袍は肩のラインが水平に近いため肩幅の広い人に似合います。これに対し、アオザイは肩のラインが斜め下へ落ちるため、肩幅の狭い人に似合います。また、いずれも袖無し(ノー・スリーブ、スリーブ・レス)の種類がありますが、旗袍の場合は肩が覆われたままなのに対し、アオザイの場合は脇から襟元までの布が無くなる理由から、紐を首に結ぶか襟のみで留める(アメリカン・スリーブ)かという形が多く採用されてきました。ちなみにアクセサリーからみると、旗袍にはブローチ、アオザイにはネックレスが似合います。

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