近現代旗袍の変貌

このページでは次の論文を掻い摘んで説明しています。岩本真一「近現代旗袍の変貌―設計理念と機能性にみる民族衣装の方向―」『大阪経大論集』第66巻3号,2015年9月,125-148頁

近年,中国女性の伝統衣装である旗袍[1]は,中国大陸,香港,台湾,シンガポールなどで普段着に着用されなくなりましたが[2],社交面では人気を維持しています。

旗袍とは上半身に着用する外衣の一つで,中国で外衣は衫,袍,套などを指し,清朝期に満州族(旗人)女性が着用していた外衣を現在は旗袍とよびます。旗袍の呼称が定着したのは中華民国期(以下,民国期),1927・28年頃のことです[3]。民国期旗袍は,服制をつうじて礼服や公務員用制服として画一的に統制される一方,普段着としては日進月歩の変化を示しました。結果として現代旗袍はほぼ西服化(洋服化)したといわれます。

図1、図3、図4は、それぞれ清朝期旗袍、民国期型旗袍、現代旗袍の概念図か再現衣服です。

清朝期旗袍の概念図
図1 清朝期旗袍の概念図。蔡蕾(atelier leilei)作成。
図 3 実験衣1(民国期型旗袍) 図 4 実験衣2(現代旗袍) いずれも蔡蕾作成
図 3 実験衣1(民国期型旗袍) 図 4 実験衣2(現代旗袍) いずれも蔡蕾(atelier leilei)作成。

本稿は、図3と図4を2名の女性協力者に着用して頂き、現代旗袍と民国期旗袍との違いを着装実験から検証し,近現代旗袍の設計理念と機能性を考察しました。特に腕の運動性を比較しています。様々な上肢動作をつうじ,民国期旗袍は大きな弛緩が広範囲で発生し,上肢動作による衣服のずれを弛緩が吸収したため,上肢の運動性を高める長所を有します。現代旗袍ではそれら弛緩の一部が極端な皺や折れ目となり,背中や袖に引きつりを生じ,直立姿勢時の皺の無さという長所は運動性の低下要因にもなります。

本稿の最後では、清朝期や民国期の平連袖では腕の運動がしやすい点を結果として導き、長衫(おおむね旗袍の男性版)の車夫を示す2枚の写真を取り上げて、そこに評された運動性の低下を否定しました。

長衫の車夫(撮影年・場所不詳) 図8 長衫の車夫(1948年4月・上海)
図7 長衫の車夫(撮影年・場所不詳)、図8 長衫の車夫(1948年4月・上海)

[1] 英語でqipaoまたはcheongsam(長衫)。カタカナ表記はチーパオ。日本における服飾用語・ファッション用語は混乱しており,研究用語として確立されていません。夥しい量のカタカナ用語が蔓延し,カタカナ以外に日本語を持たない用語が多いです。

[2] Matthew Chew, ‘Contemporary Re-emergence of the Qipao : Political Nationalism, Cultural Production and Popular Consumption of a Traditional Chinese Dress’, The China Quarterly, Volume 189, March 2007, Cambridge Univ Press, p 144。

[3] 呉昊『都会風裳―細説中国婦女服飾与身体革命(1911-1935)―』(三聯書店,香港,2006年,268頁)。

出典 : 岩本真一「近現代旗袍の変貌―設計理念と機能性にみる民族衣装の方向―」『大阪経大論集』第66巻3号,2015年9月,125-148頁


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[投稿日]2017/01/01
[更新日]2017/05/14