陳数の旗袍 : まとめと旗袍のスリット

チェン・シュー)の旗袍 : 概要

ガオ・シーシー監督のドラマ『新・上海グランド』(高希希『新上海灘』)から、出演女優の 陳数の旗袍 を紹介します。今回は最終回として、陳数の旗袍 をスリットからまとめます。今まで、ガオ・シーシー『新・上海グランド』の時代考証(歴史の再現)が低いと述べてきました。細部はともかく、ドラマ全体からみて最も目立つ違和感は旗袍のスリット(slit)の深さにあります。

陳数の旗袍 : エキストラの旗袍のスリット

まず、エキストラの着ている旗袍(qipao)のスリット。これがドラマ全体的に深く入り過ぎています。次の場面の左から二人目の女性の旗袍で明らかです。彼女は中に白色の厚めのタイツを穿いています。これはニット技術の低かった20世紀前半には有りえたもので、1960年代以降に薄くなるストッキングではない点が時代考証的にOKです。問題は一般人でこのスリットの深さは有り得ない点です。歩行する場合でも、膝下まで隠すでしょう。

ガオ・シーシー『新・上海グランド』(高希希『新上海灘』, Gao Xixi, Shang Hai Bund) (c) 北京天中映画文化芸術有限公司

ガオ・シーシー『新・上海グランド』(高希希『新上海灘』, Gao Xixi, Shang Hai Bund) (c) 北京天中映画文化芸術有限公司

陳数の旗袍 : サーカス(曲芸師)たちの旗袍のスリット

次に、曲芸師たちの街頭舞踏の様子を映した次の場面。ドラマの前半で、馮敬堯の部下から丁力がある人物を暗殺するよう圧力をかけられ、実際に途中まで実行するのですが、その人物を許文強と知って逃げる一連の場面に出てきます。

ガオ・シーシー『新・上海グランド』(高希希『新上海灘』, Gao Xixi, Shang Hai Bund) (c) 北京天中映画文化芸術有限公司

ガオ・シーシー『新・上海グランド』(高希希『新上海灘』, Gao Xixi, Shang Hai Bund) (c) 北京天中映画文化芸術有限公司

上に登っている女子を横から支える女性の旗袍はオレンジ色に黒色のチェック柄で、まず連袖に見えます。ゆったりしていますね。このタイプの旗袍が上肢運動に長けている点は「連袖旗袍の動きやすさ」に述べた通り、手を水平以上に挙げても旗袍全体への引きつりは生じません。

違和感があるのは、この女性の旗袍のスリットです。お尻の下くらいまでスリットが入っていて、そして太腿がかなり見えています。横から支えるだけなのでこの深さで良いとも言えますが、見せるべき演技は登っている少女にあるのですから、女性の旗袍のスリットは場違いです。この深さで仕事や作業をする場合は普通、他の曲芸師たちと同じように中にズボンを穿きます。この点は「近現代旗袍の変貌」をご参照ください。

陳数の旗袍 :

そして、陳数の演じる方艶蕓の旗袍を見ましょう。旗袍のスリットの深いことが分かりやすいのは次の場面です。フランス人の何ちゃらというエロオヤジがどうしても方艶蕓に会いたいと思い彼女の家へやってきたので、仕方なしに出迎える場面です。黒地に桃色の大きい花柄の旗袍です。膝頭が見え隠れするくらい、そこそこ深いスリットが入っています。

ガオ・シーシー『新・上海グランド』(高希希『新上海灘』, Gao Xixi, Shang Hai Bund) (c) 北京天中映画文化芸術有限公司

ガオ・シーシー『新・上海グランド』(高希希『新上海灘』, Gao Xixi, Shang Hai Bund) (c) 北京天中映画文化芸術有限公司

方艶蕓は馮敬堯の恋人かつ上海社交界の華ですから、これくらいの脚の露出があっても良いかと思いがちです。しかし、実際にそうだったと考えることは難しいのです。

ガオ・シーシー『新・上海グランド』(高希希『新上海灘』, Gao Xixi, Shang Hai Bund) (c) 北京天中映画文化芸術有限公司

ガオ・シーシー『新・上海グランド』(高希希『新上海灘』, Gao Xixi, Shang Hai Bund) (c) 北京天中映画文化芸術有限公司

ちなみに、方艶蕓の女中の旗袍のスリットは方艶蕓以上の勢いで、かなり深く入っています。太腿まで丸出しなのが上の写真で分かります。最初の写真で曲芸師の旗袍を見ましたが、女中の場合も毎日の作業・仕事が大変だという理由で旗袍のスリットを深めたとしても、それならばこそ中にズボンを穿くというのは、清朝期旗袍からの風習であり、20世紀前半にもその風習は、特に肉体労働を行なう男女間で一般的でした。

孟小冬の旗袍のスリット

さて、次の写真は、20世紀前半の上海最大のマフィアといわれた杜月笙と妻・孟小冬の写真です。立場的に、まずまず方艶蕓と孟小冬は近しいので、孟小冬の場合の旗袍のスリットを見ましょう。

杜月笙と孟小冬のツーショット(1930年代半ば)。杜月笙与孟小冬合影 via 手机百度

この写真から、孟小冬の着る水玉風の旗袍のスリットは膝下で留まっていることが分かります。また、方艶蕓の黒地の旗袍は脚の弁慶が見えているのに比べ、孟小冬の旗袍は裾の丈が長く、おそらく足首までの長さがあると想像できます。当時の旗袍でスリットが膝頭の上ということは考えにくく、ドラマの場面もこのツーショット写真も1930年代半ばですから、ドラマの時代考証はなっていません。

1950年、孟小冬が杜月笙と結婚する当日の写真(於香港)。孟小冬在香港与杜月笙结婚当日,晚间宴请宾朋时于席间所拍照片。 via 手机百度

もう一つの写真は、1950年に杜月笙と孟小冬が結婚式を挙げる日のもので、香港で写されました。旗袍の生地はサテンでしょうか、光沢の入った華やかさがあります。他方で、脚を組んでも旗袍の裾丈は弁慶辺りに来る程度に長く、また、旗袍のスリットも深くないことが分かります。

陳数の旗袍 : まとめ

ガオ・シーシー監督のドラマ『新・上海グランド』から、出演女優の陳数(方艶蕓)の旗袍のスリットを中心に見てきました。孟小冬という実在の人物の写真も参照して同時代的に確認してきましたが、やはりドラマでの旗袍は、一方で連袖を中心としていた点がOK、旗袍のスリットが誰彼なしに深すぎる点と旗袍の裾丈が短い点がNG、という結論になります。衣服を作る時、領や襟、肩、袖に困難が集中しますが、それにしても、このドラマは脚元が緩いという印象を持ちました。

ガオ・シーシー『新・上海グランド』中国、2008年公開(Amazonへ)

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