(4)ブランド帝国の成立:デザイナーと市場
さて、1947年という年は、ファッション界の革命が起こったワンポイントとして記憶されている。それは、当時の『ハーパース・バザー』編集長であったカーメル・スノーが「これこそ、新しいルックだ!」と驚いたニュー・ルック、すなわちクリスチャン・ディオールの「コロール・ライン」(花冠ライン)の登場だった。
このスタイル自体をみるかぎり、ヴィクトリアン・スタイルを想像させる復古的なものであり、どこが「ニュー・ルック」かは分からない。しかし、ほんの2年前まで行なわれていた第2次世界大戦の時期に着用されていた女性の服装を参照すれば、その革新性が理解できる。つまり、当時の欧米諸国の女性服は、布地の節約のために、男性服に似た肩の張ったジャケットとストレートで短いスカートというのが定番だったのである。その衝撃力は、シカゴでの反対運動などにみられたように、とても激しいものだった。
64年のアンドレ・クレージュのミニ・スカート以上の衝撃をもったといわれる、47年のディオールのコロール・ライン。それ以後、生涯を閉じる10年の間に、クリスチャン・ディオールは、いくつかのアルファベット・ラインを中心に、ブランドの世界全体のトレンド・セッターとしての役割を果たしていく。
一方、デザインだけでなく、ディオールは経営戦略においても一つの革命を起こしている。1948年にアメリカ、ニューヨークの靴下会社プレスティージ社と契約し、ここにブランドによる初のライセンス生産が開始されたのである。以後、ディオールは、ネクタイ、下着、ソックス、アクセサリーなどにもライセンスを拡大、80年代後半までに、実に、200を超すライセンスを保持していたといわれる。ライセンス生産で得られるロイヤリティによって、ディオール社は莫大な利益をうみ、デザイン面でも売上の面でも、文字通りモード帝国として世界に君臨することとなったのである。ディオールの編み出したライセンスという新しい販売方法は、ピエール・カルダンとイヴ・サンローランの2人に引き継がれていく。
- (1)ブランド前史:デザイナーとその顧客
- (2)ブランド・ビジネスの成立:デザイナーと商標
- (3)コルセットからの解放:デザイナーと女性
- (4)ブランド帝国の成立:デザイナーと市場
- (5)ブランドの変貌:プレタ・ポルテの登場
