東アジア民族衣装への黄金比の応用

人体と衣装にみる 黄金比

中華圏の旗袍、日本の着物、朝鮮のチョゴリ、ベトナムのアオザイ等、東アジア民族衣装の変貌の基点には、黄金比 (黄金分割 : golden ratio) という人類の慣性が働いています。この記事では、写真も交えて、 東アジア民族衣装への黄金比の応用 を簡単にまとめています。

次の絵は俞躍[2014]にある欧米人女性を想定した衣装の設計方法です。図7の「西方人体中的”黄金分割”」は、欧米人女性の裸体にみる黄金比を示し、図9の「土黄調単旗袍着装示意図」は、その裸体に土黄色地(茶色または黄土色の生地)の表のみの旗袍を着せた場合の理想図です。

ちなみに、「単旗袍」というのは1枚の生地(布)を使ったもので裏地が無く、単衣や単といいます(いずれも「ひとえ」と読む)。逆に裏地の付いた生地(布)は二重(ふたえ)または袷(あわせ)といいます。

黄金比 (黄金分割 : golden ratio)
西洋人の人体にある黄金比(図7)と単の旗袍設計に見る黄金比。 via 俞躍「民国時期伝統旗袍造型結構研究」設計芸術学碩士論文,北京服装学院,2014年,25頁・27頁。

さて、この図のモデルの身長は165cmで、ウェストの一番窪んだ細い部分(人体腰線)は足底から102cmの所にあります。この部分をさらに上に見せる姿勢、もっと簡単にいえば上半身を短く見せ、脚を長く見せる姿勢が分かります。図9の赤線は図7で想定されたモデルが最も綺麗な線を見せると想定される旗袍の設計線(設計図)です。旗袍の裾底から97.5cmの所(旗袍腰線)は人体腰線から4cm~5cmほど上に来るように図示されています。

東アジア民族衣装への黄金比の応用 : 旗袍の場合

この2つの図で想定されている旗袍は中華民国期(1912~1949年)の中国でたくさん制作・着用されていたものです。中華民国期は単に民国期と呼ばれることが多く、この時期の旗袍は民国期旗袍とよく呼ばれます。この民国期旗袍が次の写真です。

民国海派旗袍赏:旗袍女郎_cniff
民国期旗袍の一例(海派と呼ばれる上海を中心とした先端的な旗袍の例で、黄金比 を反映してウェストが高く見えます。) via 民国海派旗袍赏:旗袍女郎_cniff

旗袍腰線がかなり上に設計されていることが分かります。また、この時代のスリットは時期によって上下しますが、膝頭が上限です。それでも、スリットから脚がちらちら見えるため、脚が強調され長く見えるわけです。なお、民国期の旗袍は「旗袍(qipao)の概要と段階的変化」もご参照ください。

東アジア民族衣装への黄金比の応用 : 脚を長く見せる結果に

この黄金比は、中華圏の旗袍をはじめ、日本の着物、朝鮮のチョゴリ(저고리)、ベトナムのアオザイ(ao dai / quan ao)等、東アジア民族衣装に確認されます。これまで見てきた旗袍だけでなく、日本の着物、朝鮮のチョゴリ、ベトナムのアオザイにも、上半身を短く見せ、脚を長く見せる工夫が凝らされています。

東アジア民族衣装への黄金比の応用 : 着物の場合

たとえば、日本の着物は、20世紀になって帯の上端が乳房の直下辺りまで上昇しました。同じく朝鮮のチョゴリでもスカート(チマ : 치마)の上端が乳房の直下辺りまで上昇しました。チマの上端が腰線に当たることは言うまでもありません。一例に着物の帯の位置について、2つの写真で確認します。1つ目の写真は、イギリスの写真家、フェリーチェ・ベアト(Felice Beato)が1865年に写したものです。2つ目の写真は撮影者不詳、現代の色留袖です。

幕末・明治期 日本古写真メタデータ・データベース-[レコードの表示]
帯が腹部にあるため、ウェスト・ラインが低く見えます。 via 幕末・明治期 日本古写真メタデータ・データベース-[レコードの表示]
初詣の着物、既婚者と未婚者で違いは?格付け、マナーを守って既婚女性に相応しい着物を | 春夏秋冬。
帯が上方で固定されることによってウェスト・ラインが高くなっています。 via 初詣の着物、既婚者と未婚者で違いは?格付け、マナーを守って既婚女性に相応しい着物を | 春夏秋冬。

この2枚の写真について、首元からの距離や乳房下からの距離に注目して比べて下さい。帯が腹部から胸部へ上昇していることが分かります。

東アジア民族衣装への黄金比の応用 : アオザイの場合

最後に、ベトナムのアオザイを写真で確認しましょう。アオザイは旗袍と似ていて、上衣と下衣の連なったワンピース衣服に腰線を発生させるという姿勢です。その上でスリットをお尻より上にまで入れて、ズボンや脚部をさらに目立たせています。そのために、多くのアオザイで、アオザイとズボンには対照的な色を配置されることが多い訳です。

2016 Ao dai Festival to honour beauty of Vietnamese women
酔芙蓉をイメージしたアオザイのファッション・ショー。黄金比 を反映してウェストが高く見えます。 via 2016 Ao dai Festival to honour beauty of Vietnamese women

東アジア民族衣装への黄金比の応用 :要約

このページでは、写真を交えて、 旗袍、着物、アオザイ等、東アジア民族衣装の変貌の基点に、黄金比 という人類の慣性が働いている点を確認しました。東アジア民族衣装への黄金比の応用 が、いかにさりげなく、でも根深く浸透している様子がお分かりになられたと思います。

東アジア民族衣装への 黄金比 の応用 :参考文献

俞躍「民国時期伝統旗袍造型結構研究」設計芸術学碩士論文,北京服装学院,2014年


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[投稿日]2017/05/04
[更新日]2017/05/21