モードの世紀 > ファッション・コラム > モードについて > 

児童労働問題と偽造問題

« 一つ新しい記事 | このページ | 一つ古い記事 »




2007年に日本国内で表面化した賞味期限偽装問題や、中国で頻出しているブランド偽造問題について、少し考えるきっかけがあった。

『ハーパースバザー日本版』9月号では、中国の偽造バッグが主に児童労働によって担われていることがクローズ・アップされている。一人っ子政策のもとで誘拐された児童が働くことも多いという。

私自身は、この9月号の記事が偽造問題を防止するためにユニオン・デ・ファブリカンへ通報するよう呼びかけているオチに疑問をもっている。フランス善VS中国悪という単純な構図に基づいたフランスのブランドを保護する趣旨だからであるが、大学での授業で女子学生から出された感想は、むしろ酷使される児童労働の衝撃であった。

そこで、偽造ブランドを考える前に、児童労働の問題を考えてみたい。日本の歴史を振り返ると、つい100年ほど前に、女性労働と児童労働が問題視された経緯がある。

「The fake Trade」と題された件の記事によると、中国の就労年齢は16歳だが、それに満たない子供でも就労するケースが多いらしい。就労先として挙げられている例は、模造のバッグ、財布、ベルト、携帯電話の製造工場だが、別の方から聞いた話では、本物を製造している工場が夜間に偽物を製造する工場に変わる場合もあるという。

当該記事では中国品と明記されていないが、98年から2004年の間に、EU国境で押収された偽造品は10倍に増えたという。同一モデルを対象としたのだろうか、真正品換算で100万点、5億ドル相当にのぼるという。これも範囲が不明瞭だが年間5000億ドルのビジネスとして偽造品産業は活況を呈しているという(地球全体が範囲かと思われる)。品質面でいえば、21世紀に突入してからの偽造技術は格段に向上したらしい。

このようなビジネスが普及するなか、児童が酷使されるという問題も如実に進行している。

中国の児童労働問題は、先進資本主義国のたどった同じ道程を歩んでおり、誘拐問題を併発することが多い。2002年に香港で設立された民間の慈善団体「中国万世师表有限公司(萬世師表有限公司)」が広東省を中心に児童労働の摘発・学校への入学などの協力を行なっているとのことであるが、「The fake Trade」の記事には、ユニオン・デ・ファブリカンの連絡先が記されている一方で、萬世師表有限公司への連絡先は記されていない。記事自体は児童労働の告発よりも偽造問題の告発に力を入れていることが如実に分かるが、それはさておき、児童労働問題の歴史を簡単に振り返ろう。

近いところでいえば、塩沢美代子『メイドイン東南アジア―現代の女工哀史』(岩波書店、1983年)に詳しいが、1970年代の日系企業東南アジア進出に併発された児童労働・女性労働問題があった。その前の時代といえば、20世紀転換期日本の場合であり、工場法適用前後、資本家と労働者と政府の間で熾烈な議論が勃発した。農商務省『職工事情』1903年、細井和喜蔵『女工哀史』1925年、山本茂実『ああ野麦峠』1968年等が記録として活用できる。『職工事情』は後の工場法制定にさいして基礎資料となった。このような労働問題の前史となったのは、18世紀イギリスの産業革命である。

いずれにせよ、この200年ほどの間を貫通するのは、工業化・市場経済化に着手した国は公害問題と労働問題を解決できなかったということである。イギリスという先例を生産量の目標としてだけで考えた人類全体のミスであり、工場というシステムを侮ったといえる。

さて、次に偽造問題について考えてみよう。

略史を紹介すると、まず、20世紀中期のイタリアで、フランスのブランド・バッグの偽造販売問題が勃発した。失業者2万名を救った偽造品産業は、フランスのコルベール委員会の摘発・調査によって、壊滅的打撃を受けた。そのイタリアでは、20世紀後半になってアルマーニやヴェルサーチ等が賄賂で活性化(展示会優遇等)した。

そして、21世紀初頭、中国でフランスのブランド・バッグの偽造販売問題が表面化した。いつも模造されるのはフランスであるといわんばかりだが、織物製品や服飾品の偽造問題としては、1900年頃のフランスの事例が興味深い。福井県出身の代議士であった杉田定一は、19世紀末の欧米視察旅行の帰朝報告として『欧米羽二重商況視察報告』(1897年、農商務省刊)を執筆しているが、それによると、フランス絹織物業のメッカであると同時に、世界の絹織物市場の中心地でもあったリヨンでは、日本製の絹織物であろうと、フランス製のそれであろうと、リヨンから輸出される絹織物には全てリヨン産というラベルが貼られたという。

この場合、絹織物のラベルが偽造されているのであり、絹織物としては本物である点に注意したい。リヨン産としては偽物であるが、絹織物、すなわち製品としては本物なのである。最近問題となっているブランド・バッグの偽造問題も同じ構造をもっており、そこでは、バッグとしては本物であり、ヴィトン製としては偽物である。

ただし、19世紀末にみるリヨンの例にせよ、20世紀末にみる中国の例にせよ、当地・当該ブランドと「偽物」との品質は比較不能である。本物の方が品質の良いということは、原材料の仕入先から製造工程までを比較しない限り不可能である。トップ・ブランドは挙ってそのような情報を非公開としているからである。したがって、偽造品の方が優秀かも知れず、トップ・ブランドはラベルの無断利用のみを告発し、特許・著作権で勝負しているだけに過ぎない。

このように考えると、偽造ブランドの問題は、製品の偽造ではなく、ラベルの偽造であるということが分かる。無断で商標を使用したということが問題視されている。無断ではなく、かつ相応の金銭を支払えば、自分たちが製造しなくてもライセンスを発行する販売方法を導入したのは、他ならぬフランスのトップ・ブランド、クリスチャン・ディオールであった(日本ではカネボウとの業務提携が有名)。もっとも、ライセンス契約の場合、製造工程への監視・検査は、ブランド本社自体が関与することが多いはずであるが、一時は「トイレにカルダン」といわれたほどのライセンス放出によって企業体が傾いたピエール・カルダンのような場合、全ての製品を管轄することは不可能ではないか?

ブランドがフランス中心、ヨーロッパ中心である時代、そして、その内実がラベル中心である時代は、21世紀にも通用するのだろうか?

以上、偽造ブランドの問題は製品や品質ではなく、商標、許諾の問題に過ぎない点を指摘した。偽造・偽装は日本でも当然の事態であったということが、ようやく知られるようになった。「違いの分かる男」など、嘘だったのである。

このような観点からみると、肉まんへのダンボール投入などの食品偽造問題と、賞味期限偽造や古紙配合率偽装などのラベル偽装の問題との違いを考えるきっかけにもなる。ラベル偽装の場合、賞味期限偽装では、食品として本物であり、賞味期限表示が偽物という区別が生じる。古紙配合率偽装では、再生紙を利用した物としては本物であり、古紙配合率表示としては偽物ということになる。配合率によって偽物か本物か判断が分かれるのだ。


サイト内関連ページ

    関連リンク