ミシンの特徴 3 広い用途

ミシンの特徴には大きく分けて3点が挙げられます。この3点は、高度な設置自由度、簡便性、広い用途です。これらの特徴について、1ページずつに分割して説明します。出典は岩本真一『ミシンと衣服の経済史』思文閣出版、2014年、19~28頁で、同著本文を元に、分かりやすく説明を加えました。[当サイト内紹介ページへ][思文閣出版のページへ][amazonへ]

表1 ・表2 は、『工業統計表』の「主要作業機械及設備数」から工業部門別設置数を算出したものです。「主要作業機械及設備数」は1929年に初めて登載されるが、以後35年まで収録されていません。そのうち、ミシンが初めて記載されるのは本表の39年です。表の作成にあたり、表1 に用いた「下巻」(調査対象は職工3 名以下)では登載機械種が少ないためすべてを示しました。表2 に用いた「中巻」(調査対象は職工4 名以上)では機械種が多いため、繊維部門で主として利用される機械に絞りました。

表1 日本の従業者3人以下工場における主要作業機械の設置状況(1939年)、表2 日本の従業者4人以上工場における繊維機械の設置状況(1939年) via 岩本真一『ミシンと衣服の経済史―地球規模経済と家内生産―』思文閣出版、2014年7月、22頁[amazon

表1 からは、ミシンが、旋盤、ボール盤、フライス盤、および鋸盤と同様にさまざまな部門で設置されていたことがわかります。また、繊維機械が紡織工業と化学工業(化学繊維製造業を含む)に集中していることは当然ですが、両表ともに、撚糸機、力織機、ミシンの3 種は、設置台数こそ少ないものの、金属、機械器具、窯業・土石、製材・木製品、食料品、印刷・製本業、といった異質部門の多くに設置されていることが確認されます。共通する作業として考えられるのは梱包・出荷の局面であり、これら3 種の機械は紐の作成(撚糸機)、袋地の作成(力織機)、袋口縫い(ミシン)に利用されたと考えられわけです。

しかし、撚糸機と力織機は、それぞれ、糸を撚よ る作業と布に織り上げる作業であり、紡織工場の内外を問わず共通しています。作成物も業種を問わず一定です。これに対し、ミシンは、縫製工場では衣料品生産を行ない、また出荷用の袋口縫も行ないますが、第5 章でとりあげる『外国貿易概覧』に「横浜、神戸方面ニテハせめんと、豆類ノ輸出多キニ連レ袋縫用ノモノ需要多カリシ」21) とあるように、他の産業部門においては後者(袋口縫)に特化した利用が行なわれていました。なお、アメリカのシンガー社(Singer Co.)はイギリスで「穀類の包装業務のみ」を行なう工場を買収したことがあります(マイラ・ウィルキンズ『多国籍企業の史的展開―植民地時代から1914年まで―』[amazon]江夏健一・米倉昭夫訳、ミネルヴァ書房、1973年、269頁)。

ミシンを袋口縫に使うなら、その袋と中身を運搬したり、重量を図ったりする機能も欲しい所です。次の画像は、アメリカのユニオン・スペシャル社(Union Special Co.)の特殊なミシンで、これらの機能を備えたミシンを少数ながら製造販売していました。

袋口縫移動式テーブル(蓮田重義編『工 業用ミシン総合カタログ』工業ミシン新報社、1958年、163頁)

上は、U.S.Class 21800Aという機種で「袋口縫移動式テーブル」と称されるミシンです。コンベアーの速度は1分間約29フィートで、用途は「製糖、製粉、セメント用袋口縫」です。縫目数はインチ当たり3~8針(以上、蓮田重義編『工 業用ミシン総合カタログ』工業ミシン新報社、1958年、163頁)。

自動式袋口縫(蓮田重義編『工 業用ミシン総合カタログ』工業ミシン新報社、1958年、163頁)

上は、U.S.Class 20100Dという機種で「自動式袋口縫」と称されるミシンです。「簡易自動式袋口縫機械」とも呼ばれ、「袋詰めから計量、口縫まで1人又は2人にて出来るもの、そのため小工場向として適し、大工場に於ては補助機として用いられる」と説明されています。機能は、「ロールベアリングの付いた浮動式の袋台がミシンの送りの力を利用してミシン頭部の下を通るときに、口縫をなす」ものです。針を備えたミシン頭部の縫製運動と袋台の移動が連動しているわけです(以上、蓮田重義編『工 業用ミシン総合カタログ』工業ミシン新報社、1958年、163頁)。

重量物運搬用(コンベヤー水平式)(蓮田重義編『工 業用ミシン総合カタログ』工業ミシン新報社、1958年、163頁)

上は、U.S.Class 20500Bという機種で「重量物運搬用(コンベヤー水平式)」と称されるミシンです。コンベヤ(コンベア)の速度はミシンが1秒間に3針縫うのに合わせて設計されています。

以上、ミシンには、袋口に当てて縫うという簡便性に関わり、作成物を特定しないという抽象性を有しています。つまり、精紡糸を生産する紡績機および織物を生産する力織機とは異なり、ミシンには衣料品および関連品を生産するという必然性が無いのです。また、両表は、産業横断的に設置されたという意味での分散性も示します。織るという作業は経糸と緯糸を交差させる作業ですが、縫うという作業は「縫う」としか言いようのない程度にまで抽象性を帯びているわけです。


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[投稿日]2017/02/25
[更新日]2017/05/07