ピエール・カルダン:Pierre Cardin
60年代に宇宙服のデザインとライセンス戦略でモード界をゆさぶったデザイナー
1922年、イタリア・べニスに生まれる。両親はフランス人。17歳でヴィッシーの仕立屋で働きはじめ、フランスがドイツから解放された1944年にパリへ出た。45年からパキャン(パカン)、スキャパレリ、ルロン、バルマンの店を駆け足で遍歴。46年、創業したばかりのディオールの店に移り、舞台衣装、紳士服なども手がけた。翌47年2月にディオール店初のコレクションで革命的なファッション「ニュー・ルック」が発表されたが、カルダンはタイユール(テーラード仕立て)のアトリエ主任として参画した。当時、ディオールのメゾンには、サン・ローラン、ギィ・ラローシュもおり、カルダンも含めて、ディオールの「若き3プリンス」とよばれた。
49年にサントノレ街に自分のメゾンを開き、男性向けと女性向けとに分けてそれぞれを「アダム(Adam)」と「イブ(Eve)」と名づけた。57年秋の「投げ縄ライン」以来、次々と意欲的な試みを発表し、布地の魔術師といわれたほどの前衛的な才能がいかんなく発揮され、宇宙時代といわれた60年代、とくに64年の「スペース・エイジ」など斬新なアイディアと宇宙的なデザインで一時代を画する。66年のヌード・ルック、金属製の装身具、ユニセックスの宇宙服スーツ、チュニックとタイツの組合せなどは、革命的ともいえるファッションであった。また、早い時期からクチュリエとしてプレタポルテも手がけ、子供服やジュニア服まで創作活動を広げていた。
62年プランタン百貨店にカルダン・コーナーを開設し、自店のオートクチュール作品のコピーを自店で作製した安価なプレタポルテを売り出した。これによって、クチュールのプレタポルテ進出のイニシアティブを取り、オートクチュール(高級注文服)のブランドとして、プレタポルテ(既製服)を初めて発表。また、63年、紳士物既製服業者ブリルの要請で「ジュニア・コレクション」を出し、これが大当たりとなって、婦人服プレタポルテを中止し、ブリルと提携して紳士服業界に進出した。78年に韓国に進出、また同年、中国に招かれて以来、同国の服装の近代化も指導している。
カルダンの作品は、ビニールやアルミ、プラスチックといった無機質な素材を使った幾何学的なラインをもった「コスモコール・ルック」が最も有名であるが、女性服では大胆で独特なシルエットをみせ、カートリッジ・プリーツ、スカラップ、くりぬき、金属製のジッパーやベルト、ヘルメットなども特徴的であった。また、ユニセックスな紳士服でこの分野にも新風を吹き込んだ。
なお、59年に高島屋の招きで来日した際、ファッション・モデル松本弘子の個性を買ってパリに招き、店の専属にしたことは有名である。カルダン自身、日本の伝統的な意匠に興味を持っていた。続く60年代に日本では百貨店がカルダンの作品を輸入しはじめた。これによって、カルダンは、ブランド名をあらゆる分野の企業に“貸し出す”「ライセンス・ビジネス」を展開。東京にライセンス管理会社「ピエール・カルダン・ジャパン」が開業された。
こうして、既製服だけでなく、魔法瓶、ボールペン、タオルなどにカルダンの名が冠され、日本人が最初に認知した高級ブランドとなった。しかし、多くの海外ブランドが日本に入ってきた80年代以降、そのライセンス商品が、かえってブランドの高級感を損なうことになり、国内では今、ライセンスを減らしイメージの復権に力を入れている。現在、上記以外にも、ワイン、生活用品、かつら、航空機など、ライセンス数は100カ国以上900に及ぶライセンスを取得している。
また、79年に東京・有楽町で芸術家具の店「エボリューシオン(Evolution)」を開設。さらに、ジャン・コクトーの映画『美女と野獣』の衣裳デザイン、パリ・コンコルド広場に近い劇場「エスパース・ピエール・カルダン」の経営なども行なっており、多角的な起業家として、他のデザイナーの追随を許していない。
92年、フランス最高の栄誉あるアカデミー・フランセーズの会員に、モード界から初めて選出された。
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