きもの文様図鑑 - 明治・大正・昭和に見る
本書の概要・感想
長崎巌監修、弓岡勝美編集『きもの文様図鑑 - 明治・大正・昭和に見る』平凡社、2005年。
本書は、明治・大正・昭和に作成された衣服などを編者が集めたコレクションのうち、和装文様にみられる装飾美の数々がカラー図版で紹介されている。
日本列島は比較的四季に富んでおり、服飾にはその点が大きく反映されている。季節に応じた生地、色、文様が多彩に作られてきたことは広く知られる。
桃山時代の着物には、四季の植物が季節ごとにまとめられたり、取り混ぜて表現されている。例えば、春と秋の植物に加え、百合や椿などの夏・冬の植物も一緒に表わされ、四季文様と呼ぶべき四季のモチーフが一枚の生地に取りそろえられるのが一般的であった。
江戸時代になると、植物文様が季節感を表わすとは限らなくなり、吉祥文様のように、季節感の表出以外の目的で植物がモチーフに使われるケースも増えた。この吉祥文様は、中国にルーツをもつものと、中国では吉祥的意味合いが強くないもののうち、日本で吉祥的な意味が与えられたものの、大きく二つのルーツがある。
前者の吉祥文様は飛鳥時代から奈良時代にかけて文様の主流をなしたもので、龍や鳳凰、雲気などが代表的である。もっとも、これらは染織文様として用いられたが衣服にはあまり使われていない。平安時代になると、国風文化の影響をもとに、吉祥文様は取捨選択が行なわれることとなり、最も代表的な鶴の文様の場合、中国と同様に繰り返し意匠として多用されてきた。
後者の吉祥文様、つまり純国産的な文様、例えば橘は、理想郷である常世国からもたらされる果実であり、長寿を招き元気な子供を授かる信仰の表現とされた。
江戸時代では、暖簾、冊子、御所車などの王朝風文様が人気をよんだ。この文様には古き良き平安朝への憧憬があり、婚礼儀式に使用されるなど、優雅で華やかな文様が好んで使われた。宗教的な意味合いは少ないらしい。
明治期以降は、化学染料や新しい染織技術が定着し、海外の美術や工芸意匠の影響も見ることができる。鮮やかな色づかいと洋画的で写実的な表現が特徴である。19世紀に進行した男性の洋装化を追って、昭和になると和装が廃れ、女性の洋装化が進んだ。
日本の意匠・文様は、この時点で歴史を終えたといえるが、あえて本書に求めるものがあるとすれば、(無いもの強請りという感じだが)和装と和風文様とを合わせて考えすぎずに、例えば、ジーンズやTシャツにも若干反映されることのあった文様を、洋装への和風文様の利用という観点から、写真資料の紹介がほしいところだ。
帯より
日本のデザインの泉。カラー686点の文様。
著者略歴
長崎巌
東京芸術大学大学院美術研究科博士課程修了。東京国立博物館染織室長を経て、共立女子大学教授。染織、服飾、意匠、文様、色彩文化史など、日本の服飾文化史を多面的に研究。数多くの染織・服飾美術展の企画展示も手がける。
弓岡勝美
1970年初頭から大正・昭和の着物の意匠に着眼し、数多くコレクションするとともに、髪型・着付けも含めた着物のコーディネーターとして長年活躍。現在はアンティークきものの店「壱の蔵」を経営しながら、古裂を使った押し絵や細工作品を制作、指導も行う。
