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ファッションの社会経済史-在来織物業の技術革新と流行市場



本書の概要・感想

田村均『ファッションの社会経済史-在来織物業の技術革新と流行市場』日本経済評論社、2004年

開港によって在来織物業が幕末・明治前期に展開した技術革新と、それを可能にした市場条件=ファッションに目覚めた庶民層の旺盛な服飾生活の実態を明らかにした力作。

【本書の課題】

日本が体験した幕末・海港の社会経済的なインパクトに注目し、在来織物業が当該時期に対応した動向を実証的に考察する。また、その対応を可能にした市場条件(ファッションに覚醒した庶民層の旺盛な織物需要と流行)となった服飾生活の実態を解明する。

その際、在来的な綿織物業や輸入綿布に留まらず、「輸入毛織物」の影響(インパクト)を毛織物インパクトとして、著者独自の観点で展開させているのが本書のポイント。具体的に毛織物インパクトとは、呉呂やモスリン(唐縮緬)などが想像を絶するほどに当時の人々を魅了し、ファッションを巡る彼らの色彩感覚を刺激し、消費意欲を増幅させた。ファッション分野において、輸入毛織物が受容されたということは、和装への速やかな積極的吸収によって開花されたともいえる。

本書の方法論については、著者自身以下の2点を取り上げている。

(1)経済学的に、需要と供給の空間的乖離から生じる織物受給の変動を調整する市場経済のダイナミズムを、最終消費をもみすえた経済的連鎖の関係として胴体的に把握する。
(2)歴史学的には、近代移行期に日本の在来織物業が体験したドラスティックな史的過程を、地理的に隔たった営業者と消費者の共時的(シンクロニシティ)な生活軌跡として捉えるだけでなく、人間の内発的な営為(=生活向上を巡る伝統と確信の相克過程)として具体的に描く。

上記2点の方法論にもとづいて、田村は、在来技術と市場との関係性を重視する。つまり、生活領域での多様な織物需要の発生プロセスを明らかにしつつ、製品技術に影響を与える流行需要喚起との関係を考察することを強調している。

日本の幕末・海港期に生じた服飾史上の変化は、絹織物の低級化と綿織物の高級化である。この変化に対し、輸入綿糸の速やかな需要や化学染料の積極的な導入が密接に関わる。例えば、新素材のイギリス糸を巡り、産地サイドから盛んに受容された30番手前後の中糸が、綿織物業界で主に高級縞木綿の国産唐桟や結城縞の経糸、新製品の二子縞(二タ子縞)や博多結城(絹綿交織)の緯糸に積極的に応用されたり、40番手レベルの細糸を綿織物業界が二子縞の経糸に抜擢した一方で絹織物業界が交織縮緬や交織繻子などの絹綿交織物の緯糸として採用したりした。

以上が本書の枠組み的な論点だが、実証的にも充分に技術導入の具体像が描かれていたり、幕末期における庶民層の生活習慣と服飾との関係について論じられたりしており、本書の課題をガッチリと固めている。

ただ、問題提起や方法論から掘り起こし、経済史研究において染織技術と流行という関係を中心に詳細に検討するまで至った力作だからこそ、経済学的な「流行」論とでもいうべき、ファッションの消費者に典型的に見られる物真似性・画一性上昇志向・階級意識という一般論にも踏み込んで欲しいところ。

【本書の目次】

第1部 幕末開港と毛織物インパクト-在来織物業の挑戦と技術革新(在来織物業の技術革新と流行市場-毛織物流行と絹綿交織化

・在来織物業の技術革新と輸入綿糸-縞木綿の伝統と革新
・在来織物業の技術革新と化学染料-伝統色から流行色へ
・東京織物市場の動向と流行織物-縞木綿を中心に)

第2部 幕末庶民の毛織物需要と流行ファッション-在地農村の服飾革命と流行消費(幕末庶民のよそおいと流行ファッション-流行消費の勃興と衣料資産

・流行のなかの農民衣服-幕末期農村の布と着物の生活史
・機織りと縞稼ぎ-農村織物業の営みとその生活領域
・祝祭のよそおいと流行織物-服飾儀礼の生活世界)


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