地域経済の形成と発展の原理-伊勢崎織物業史における資本原理と地域原理
本書の概要・感想
松嵜久実『地域経済の形成と発展の原理-伊勢崎織物業史における資本原理と地域原理』シーエーピー出版、2001年
本書は、伊勢崎銘仙と呼ばれた絹織物業の歴史から、地域経済における資本の原理と地域の原理の関係を捉えようとした研究である。
資本原理は地域に根ざすものであっても、域外・国外へ膨張するものであっても、地域原理というものを補完材料としながら、企業の利潤追求を促進させる。それと同時に、地域経済自体を衰退させ、場合によっては消滅させることもある。また、地域における資本原理は、地域原理よりも優位に立つことが多かったが、膨張型の資本原理に比べれば弱い立場にあった。
以上のような問題関心にもとづいて、本書では次の5点が課題とされ、詳細に検討されている。個別研究が中心となった本だが、学位論文ということもあり、丁寧に論点を追っているのが印象的である。また、問題提起が資本の原理や地域動向のいずれに偏ることなく、ともに視野に入れつつ一般化しようという姿勢へ繋がっている。近年の経済史研究にはないバランスの取れたものだと評価できる。
【本書の課題】
(1)企業の経済活動を説明する際、既存の客観的条件である経済状況だけでは不十分であり、地域に存在する無形資源を維持する主体的な要因に企業活動が支えられているという点を明らかにする必要がある。具体的には、不確実性のある投資活動、未来に向けた産地活動を行うための主体的判断を検討する。
(2)地域で活動する企業の経済活動を、個別企業の利害を追求する中心的な原理である資本原理だけで説明することは不可能であり、この原理を補完する地域原理が必要であることを証明する。
(3)織物業に従事した人々が形成した経営技術と生産技術を明らかにする。これは無形資源の代表格であり、容易に域外へ移転できるものではなかった。
(4)織物業という基軸産業の存在によって、地域の人々の関係がどのように形成されてきたのか、また、共同性やそれによる目的というものがどのように作られてきたのかを明らかにする。
(5)伊勢崎織物業の発展を巡り、そこに出現する経済観念を明らかにする。地域に根ざした特産品「伊勢崎銘仙」が輸出可能なまでに展開した際に生じた、地域主義的な経済観念と他の経済観念との確執に対し、地域に人々がこの問題をどう認識していたのかを明らかにする。
(6)伊勢崎織物業の生産力の発展が、地域の人々からどのように評価されたのかを明らかにする。生産力の上昇はどのような問題を発生させたのかを明らかにする。
