日本人のすがたと暮らし 明治・大正・昭和前期の「身装」

日本人のすがたと暮らし は、近代化における日本人のすがたと暮らしの実態をテーマ別に再現した本です。1項目が約2頁で収められているので読みやすい。著者2名は衣服史を最も深く理解した研究者で、本書の刊行計画を知ってから私は1年以上、待ち望みました。出版予定日の数日前に著者の高橋晴子先生から恵投頂き、とても嬉しかったです。

大丸弘・高橋晴子『日本人のすがたと暮らし―明治・大正・昭和前期の「身装」―』三元社、2016年

『 日本人のすがたと暮らし 』のテーマと課題

『 日本人のすがたと暮らし 』は、新聞・雑誌記事、広告等の膨大な同時代資料を用い、近代日本人の身装(身体と装い)の劇的な変化を捉えます。身装、特に「装い」という表現を通じて、本書は身体と環境の対応の在り方を重視しています。古代から「装い」とは決して身につける物だけを指してきたわけではなく、本書の視野は、装いの周辺をはじめ、身体、美容、アクセサリー、素材と装い、着るひととTPO、産業と流通、メディアと環境、民族と民俗、装いから人へ、と多岐に広がりながら、「文化人類学の一領域としての人間論」(序文2頁)を追求します。

大丸弘氏は『平安時代の服装―その風俗史的研究―』(1961年)刊行後、長年にわたり衣服と近代化との関係に焦点を当て、時には100頁を超えるような長い論文を執筆してきました。これまで論文ばかりを読んできた私の立場からして、大丸氏の著書が出たということは非常に助かります。また、高橋晴子氏は近代日本の身装を再現した著書『近代日本の身装文化―「身体と装い」の文化変容―』を既に刊行し、大丸氏の諸論文ともども『ミシンと衣服の経済史』で参照させて頂きました。大丸氏・高橋氏は共に国立民族学博物館のデジタルアーカイブ「服装・身装文化資料」群を構築してきた経験から、同時代資料の扱いが非常に厳密で具体性に富んでいます。このため、テーマや項目に関する叙述も洞察が鋭くなっています。

大丸弘 高橋晴子 『 日本人のすがたと暮らし ― 明治・大正・昭和前期の「身装」 ― 』 三元社、2016年
大丸弘 高橋晴子 『 日本人のすがたと暮らし ― 明治・大正・昭和前期の「身装」 ― 』 三元社、2016年

『 日本人のすがたと暮らし 』の課題は「文化人類学の一領域としての人間論」ですが、同時に、歴史の再現性でもあります。歴史を述べる事は過去を述べる事とは違い、距離が大切です。観察者からの距離、観察者のいる時代からの距離、等々。近代の再現性とは当時の現実を調べたり想像したりする現実感覚によって磨かれていきます。その点で圧巻だった一例は次の事例です。普通、着物(和服)の良さとして考えられがちな《洗い張りと縫い直しで親子三代は着られる》利点に対し、「そんなものを着せられても、娘は心が華やがない」(261頁)と1936年の日本人女性の証言を持ってくる点は鋭いと感服しました。

大丸弘・高橋晴子『日本人のすがたと暮らし―明治・大正・昭和前期の「身装」―』三元社、2016年


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[投稿日]2017/01/01
[更新日]2017/05/15