日本婦人洋装史

日本婦人洋装史 は、日本女性の洋装史を主題にした通史。19世紀中期から始まる通説とは異なり、西洋服装が到来した16世紀に端緒を求めている視点が新鮮です。

中山千代『日本婦人洋装史』新装版、吉川弘文館、2010年

著者が述べるように、戦前日本で行なわれた服装史研究は、西洋服装史と日本服装史の狭間にあり、日本の洋装史研究の成立は遅れました。日本服装史に洋服が体系の一部として位置づけられたのは、江間務『日本服装史要』(1936年)が初めてです。

戦後は文化変容に伴なう生活史研究が目指されたため、洋服が服装史の主流に定着しました(家永三郎、江間務、和歌森太郎、遠藤武、石川綾子、村上信彦など)。しかし、総合的な婦人洋装史はいまだに刊行されておらず、これが本書刊行の大きな意図です。下記の目次にあるように通時的で詳細な説明が展開されています。

また、叙述について筆者は以下のような姿勢を示します。当代の服装を着用してきた人びとの資料は、かなり豊富に残されており、服装は常にこれら着用者によって考察されてきましたが、製作者からも解明する必要があります。さらに、ミシンを含めて製作技術の時代的特性は、服装史に重要な問題です( 日本婦人洋装史 「序」3ページ)。

製作者からの観点を採り入れたのが本書の重点です。多くの衣服史研究は社会史的な叙述を土台に、当時の風俗や社会事象を導入し(第一次大戦後に女性の衣服は活動的になった、等々)た上で、服装の流行を説明するという方法を採っています。しかし、様々な衣服及び服装は古今東西にみられる現象であり、戦争が一つの重要な契機になることはあっても、服装史全体は循環するものであり、その側面が見落とされています。したがって、服装の歴史を扱う著書のほとんどが、服装を「時代の確認」程度に扱ってきたわけです。

これに対し本書は、蒐集した業界長老の談話を重視し、また、東京家政学院大学から実測裁断図を借用するなど、製作者観点を重視しています。そのため、ミシンの伝来についても、将軍家定への贈物(ウィラー・アンド・ウィルソン社製)を第1 ルートとし、第2ルートを婦人洋服業、第3ルートを男子服業と区分している点は、どれかのルートに偏りがちな後代の服飾史研究を超える視野を持っていました。この著書は近代日本の服装史・衣服史で最も読むべき本の1つであると断言できます。

中山千代『本婦人洋装史』新装版、吉川弘文館、2010年


この記事の面白かった所や分かりにくい所を教えて下さい!

[投稿日]2016/12/31
[更新日]2017/05/27