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性とスーツ:現代衣服が形づくられるまで

性とスーツ : 現代衣服が形づくられるまで 書籍批評
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本書はモダンな男性のテイラード・スーツを取りあげ、スーツを帰結とする近現代の男性衣装の展開を概観しています。

また、それに呼応した女性衣装も20世紀を中心に取り上げられています。男性服の歴史を見ると女性服の歴史が意外に分かりやすいと知りました。

著者が男性服に注目する理由

著者が男性服に固執するのは次のような衣服史上の事実があるからです。中世から男性服は女性服よりも革新的で、女性服はいつも保守的でした。

つまり、男性服は常に女性服を牽引してきました。男性服がファッションの方向を導き、規範を決め、美的提案をし、女性服がそれに応えてきました。

もちろん、男性服ばかりに注目する訳ではありません。

服飾史を正確に語ろうとすれば、男性服・女性服双方をともにあわせ考えなければならない」(12頁)

として、第3章「スーツの誕生」に男性服を、第4章「モダニティ」に女性服を述べます。

男性服が女性服を牽引したという本書の立場からは、「ヴォーグ」誌に載ったこのアリックス・グレのドレスの写真をモダンな女性衣装における一つの頂点とみなします。そのうえで、男性のテイラード・スーツのシンプルさの言語が触覚的な女性服の言語にそのまま翻案されたものだと著者は解釈します(222頁)。

アリックス・グレのドレス『ヴォーグ』1938年。

アリックス・グレのドレス『ヴォーグ』1938年。(c) Photo by Horst P. Horst, Vogue, 1938, Alix Dress Lud (Dress by Madame Alix Grès)

男性服が女性服に与えた影響

そこで一つ、男性服が女性服に影響を与えた点について、ヴァルター・ベンヤミンのモード論を後押しに挿入しておきます。

彼は『パサージュ論』の中で次のように述べました。

現在のモードとその意味。1935年の春頃、ご婦人のモードに、中位の大きさの当世風の金属製バッジに自分の名前の頭文字を刻んでジャンパーやコートに付けるのが流行した。男性たちのクラブでは前々から流行していたバッジが、こうしてモードとして女性にまで流行することになったのである(ヴァルター・ベンヤミン『パサージュ論I パリの原風景』岩波書店、1993年、137頁)

19世紀に何が起こったか

著者が服飾史の転換点と考えるのは1800年頃です。この頃から女性服は徐々に近代化(modernization)をスタート。男性服のモチーフをあれこれ利用することで男性服の理想に近づこうとしました。

スーツを真似る難しさ

男性服の理想とは布地のパーツ(別個に独立し布切れ)を縫い合わすことによって「身体を一つの統一感で包み込んでしまう構造」(14頁)のこと。この理想のスーツは身体密着性をもたず、フォーマルにもインフォーマルにも着られました。

これに対し、女性服は19世紀になっても実際は男性服の理想に近づけず、満艦装飾であり、身体の変形・損傷を顧みない無駄に華美なものだったと筆者は指摘します。

1820年頃にインチ基準の巻尺(measure)が開発された

男性服を中心としたファッション史から見える事として、本書では1820年頃に開発されたインチ基準の巻尺(measure)が事例に挙げられています(第3章「スーツの誕生」)。

これによって、多くの未採寸男性の身体に合うスーツを着用する事が可能になりました。巻尺に付随して、型紙も考案されました(146~149頁)。こうして、既製スーツは特にUSAでヒットしたという服飾史の通説に繋がっていきます。

本書が既製服を重視するのは既製服の美的ステイタスが上昇することで「ファッションが本格的な近代化を成し遂げることができた」からです(199頁)。

19世紀中期の男性スーツからみる着装の男性間個人差

男性スーツに関する鋭い指摘を紹介しましょう。

第4章「モダニティ」の「ワースとその影響」で、著者はマクラナン少将、アラン・ピンカートンと一緒にアンティータム戦場付近に立つリンカーンの写真と、土木技師が着用するスーツに皺が無数に存在する写真を併置し、スーツの安定性と柔軟性を示す二つの対極的な方向として,皺の無さと「しわのネットワーク」を指摘しています(177頁)。

スーツに皺が無い方が良いという話ではなく、スーツを着る人の職業に相応しい皺のあり方が無数からゼロまであったのだと著者は言っているのです。

女性側の変化

女性側の変化はどのように述べられているでしょうか。西洋の女性服は、18世紀から男性服より多くの空間を占領していました。

西洋においてスリム化、ボディ・コンシャス化は遅くとも19世紀末に確認できます。たとえば、1891年頃のアメリカでbody suitsまたはthree in oneのコルセットが確認されます。これは胸部と肋骨に圧迫を与えない改良コルセットです(179頁)。

1900年から1912年にかけて女性服はボリュームを減らし、着衣姿の女性と男性が空間に占有する大きさはほぼ等しくなりました(同頁)

その後、欧州では第1次大戦後の1910年代末から20年代にかけて「flat-boylike」(男性風平坦)が女性ファッションの流行となります(Jill Fields, An intimate affair; women, lingerie, and sexuality, university of California press, 2007, pp. 87-90.)。その頃、女性は他者の視線に向けて身体を見せていくようになったと本書では指摘されています(186頁)。

このような女性美基準の変化はこちらの記事とも突き合わせてご参照ください。

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